ニセ科学ツアー_水からの伝言
ちょっと長いエントリが続きます(^-^;
今回は「水からの伝言」について取り上げたいと思います。
簡単に紹介すると「水にありがとうと(良い)言葉をかけると綺麗な結晶が出来,ばかやろうと(悪い)言葉をかけると汚い結晶ができる」というもの。皆さんが一度は目にした事があるであろう,雪の結晶の事です。
結晶の写真を集めた写真集が発売されていて,売れているようです。
数年前,この本が道徳の授業でしばしば利用されていること(「だから綺麗な言葉を使いましょうね」みたいな指導?)が問題になり,ニセ科学としての批判が活発になりました。
「道徳?じゃあ,科学とは関係ないんじゃないの?なんでニセ科学として批判するの?」と思われる方もいるかも知れません。その辺の事も含めて,紹介していきたいと思います。
なお,言葉と雪の結晶だけじゃなくて,次のような事も言っているみたいです。
1.綺麗な言葉をかけると,ご飯が腐らない。
2.水が浄化できる。
3.クラシックを聴かせると綺麗な結晶になり,ヘビメタを聴かせると汚い結晶になる。
<初級編>
まずは「水からの伝言」についての科学的な知見から。
と言っても,「水からの伝言」に書かれている主張の根幹の部分は,科学としてはナンセンスでして(^-^; 水に与える言葉の影響について行われたちゃんとした研究は,私の知る限りありません。
最近は学会でちらほらと発表されているようですが,発表しているのがそっち側の人と言うオチ(^-^;
学会発表って,基本的にはどんな内容でも発表は出来るらしいので,「学会で発表し,大きな反響がありました」なんて言う文言は,実は科学的にはそれほど大きな意味を持たないらしいんです(この辺の事は,別エントリで詳細を紹介できたらと思っています)。
と言う事で,代わりに,雪の結晶についての科学的研究について,ご紹介します。もちろん,言葉は関係ありません。
1.雪の結晶
中谷宇吉郎という方が,雪の結晶について行った研究を下に,結晶を形成する条件について詳しく紹介されています。結晶の形成の上で重要なファクターは,温度と水蒸気の過飽和度であると言う事が示されています。
中谷さんにちなんで,雪の科学館という施設も作られ,運営されています。うーん,これは面白そう。子供たちも喜びそうですね。
これを見た私の感想。
・なるほど,分かっていない部分もあるにしろ,結晶の出来かたは温度その他の環境条件によって決まる事がはっきりしてるんだなあ。
・ん,ちょっと待てよ?言葉で結晶の形が変わるんだったら,実験のときに研究者が何を言ってるかで,全く違う結果になっちゃうんじゃない?水を使った実験なんて,誰がやるか,どんな事を話しながらやるかで結果が変わっちゃって,まともな研究なんかできっこないじゃん。
・じゃあなんで,中谷さんはきちんと研究が出来ているんだろう。
雪の結晶に限らず,水を用いる科学実験なんて,山ほどあります。水そのものを調べる研究だってあります。みんな,水を使って実験する時は「ありがとう・・・ありがとう・・・」ってつぶやきながら研究するんでしょうか(^-^;
<中級編>
次に,ニセ科学批判の内容を調べてみましょう。前回紹介した血液型性格判断でも,科学的な正否だけでなく,差別を絡めた問題点の指摘などがありました。「水からの伝言」についても,道徳で教える事の問題,言語学的な問題,芸術的な観点からの指摘など,様々な批判が行われています。
1.kikulogで取り上げられた記事の一覧
まずはおなじみのkikulogから。きくちさんは特に「水からの伝言」の批判に力を入れていまして,道徳で使用する事の是非も含めて,いろいろな観点から指摘なさっています。
2.「水からの伝言」を信じないで下さい
田崎晴明さんがお作りになっている批判のページ。ニセ科学側の人たちの言っている事が科学としてでたらめである事に加え,やはり道徳で教える事の問題点を強調なさっています。
3.「水からの伝言」に言語学の立場から反論する
こちらはdlitさんのブログのエントリ。関連するエントリは複数ありますが,最もクリティカルな記事にリンクを張っておきます。
「水はかけられた言葉が良い言葉であるか,悪い言葉であるかを判断できない」と言う事を,言語学の立場から指摘されています。
4.「水からの伝言」って何だ
アーティストである小田隆さんの,アーティストらしい視点からの批判。一言で言うと「美しい?美しいって,なによ」です・・・すみません,要約し過ぎかもしれないので,ぜひリンク先をご覧ください。
5.ニセ科学のこと(水からの伝言)
ご自分のお子さんの授業で「水からの伝言」を使われてしまった親御さんのブログのエントリ。登場する先生の認識の薄さについても気になるところです。
これらを見た私の感想
・なんと言うか(汗)これだけありとあらゆる方向から批判されるって,別の意味ですごいよねえ。
・でも,道徳の授業って言うのは,確かにまずいよねえ。もし自分の子供が教師やクラスメイトの名前を片っ端からご飯に張り付けて「いい人と悪い人の見分け方を先生から教えてもらったんだよ♪」なあんて,無邪気な笑顔で言われた日には,どうしたら良いものか途方に暮れてしまうだろうな。
・科学的には,問題外なんだな。というか,そもそもまともな研究が一つも行われていないって・・・(汗)。
・言葉で元素が変わる?それってなんて核融合?実体がないものって,ほとんど万能だね。・・・そうか,可能な事と不可能な事との境界線がはっきりしているかどうかって言うのは,ニセ科学を見分ける一つの基準になるかも。
<上級編>
実は「水からの伝言」に関しては「科学かそうでないか」について,ニセ科学批判者とニセ科学擁護者との間の論争はほとんどありません。いや,論争そのものは,無い事も無いんですが,どうもニセ科学である事を中心に据えた議論にはならないんですよ。
ニセ科学側の人に,中心的な存在がいない事,本の著者である江本氏が議論を回避している事が大きいのかな。
ですので,上級編は省略します。
<究極編>
では,ニセ科学側のサイトをいくつかご紹介。
1.株式会社I.H.M.のホームページ
えーと・・・商売のページですね。ニセ科学批判のページでは主要なキーワードとなっている「波動」が出てきます。
2.水からの伝言
「水からの伝言」の著者である江本勝氏のブログ。結構すごい事がさらりと書いてあります。マジなのか,ネタなのか,しばしば悩みますが,たぶんガチマジ。
これらを見た私の感想
・っつか、やっぱ商売ですよねー
「水からの伝言」については,実は,私はあまりニセ科学として実感が湧かないんです。どうやったら,この内容を事実と信じてしまうのかが,心の動きとして理解できない。
科学者の方達も最初「いくら何でもこれを信じる人はいないだろう」と思っていていて,道徳の授業で使われていると言う話を聴いて愕然とした,と言うような述懐が,kikulogなんかでもしばしばされています。
多分「水からの伝言」自体は,彼等の商売の結構核に近い部分で,実はそれを取り巻くように,もっと受け入れられやすいこと,例えば「言葉をかけると植物はすくすく育つ」とか「クラシックを聴かせると,胎教に良い」とか「クラシックを聴かせると,日本酒がマイルドになる」とかがあって,それらを信じる人が,段階的にこういったものに触れる事によって,信じていくのでしょうかねえ。
そして「水からの伝言」を信じた人は,更に次の段階として,波動に突き進んでいくと。
「水からの伝言」はそう言った,階段の一つ,全体像の中の一部と言う捉え方は重要かも知れません。小学校や中学校で「水には人の言葉がわかる」などと教えられた子供は,その手のものに対する耐性が低くなって,取り込まれやすくなってしまうのかも。
そうやって波及していくかもしれない影響も含めて,やっぱり子供たちに教えるのは問題だと思います。
こんな会話を妄想しました。
子供「先生,あのブタが,おなかが痛いってさー」
先生「こらっ!ミカちゃんの事,なんでそんな呼び方するの。謝りなさい!」
子供「えー、だって,名前を書いた紙を張り付けたらご飯が腐ったんだよ。で,ブタって書いたら腐らなかったんだ。名前で呼ぶと,体の水が汚くなってかわいそうだから,今度からブタって呼ぼうねって,みんなで決めたんだよー」
先生「・・・」
子供「あ,先生,先生の事,今度から○×□(自主規制)って呼ぶね」
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