« コメント欄までご覧いただいているみなさまへ | トップページ | 「マイナスイオン」が科学的な地位を確立する上で必要なこと »

読書感想_「雪は天からの手紙」

 今までトラックバックが上手く送れていませんでした。理由は恥ずかしいのでナイショw ですが,今度は大丈夫。なハズ。

 以前TAKESANさんのブログInterdisciplinaryのエントリ「万能などでは無い」で中谷宇吉郎さんの本「科学の方法 (岩波新書 青版 (313)) (新書)」がご紹介されていました。
 興味を持って購入し、読んでみました。

 中谷さんの本を読むのは初めてだったのですが,いやあ,おもしろいです、これ。
 おもしろい上に、とても平易な言葉で書かれていて、理解しやすい。50年前に書かれたもので、そう意識して見れば、部分部分は確かに昔の知見によるものなのですが、読んでいる最中はそんなことを全く忘れてしまうくらいに普遍的で示唆に富んだ内容です。

 読み終わったあと、私は科学に対する信頼感が増しましたが、人によっては科学に対する幻想を打ち砕かれるのかも。読む人によって違うものを与えてくれそうな、懐の深い一冊です。

 TAKESANさんのところで詳しく紹介されていますので、私の感想はここまでにしておいて、もう一冊、中谷さんの本を併せて購入し、読みました。

「雪は天からの手紙」—中谷宇吉郎エッセイ集 (岩波少年文庫) (単行本)

 とても叙情的な題名の本ですが、中身はエッセイ。中谷さんが折々に書かれた短文を一冊にまとめたものです。
 でね、これまたすごくイイんですよ。科学云々を抜きにして、とても素敵で味のある文章が詰まっています。時々出てくる、時代を感じさせる表現も楽しいです(※1)。
 一部を抜き出してみますね。

<p.12「雪の十勝」より引用>
 初めは慰み半分に手をつけてみた雪の研究も,だんだんと深入りして,かぞえてみればもう十勝岳へは五回も出かけて行ったことになる。落ちつく場所は道庁のヒュッテ白銀荘という小屋で,泥流コースの近く,吹上温泉からは五丁とへだたっていない所である。ここはちょうど十勝岳の中腹,森林地帯をそろそろ抜けようとするあたりであって,標高にして千六十メートルくらいはある所である。
 雪の研究と言っても,今では主として顕微鏡写真を撮ることが仕事であって,そのためには,顕微鏡はもちろんのこと,その写真装置から,現像用具一式,簡単な気象観測装置,それに携帯用の暗室などかなりの荷物を運ぶ必要があった。そのほかに一行の食料品からおやつの準備まで大体一回の滞在期間約十日分を持って行かねばならぬので,その方の準備もまた相当な騒ぎである。全部で百貫くらいのこれらの荷物を三,四台の馬橇にのせて五時間の雪道を揺られながら,白銀荘へ着くのはいつも日がとっぷり暮れてしまってからである。この雪の行程が一番の難関で,小屋へ着いてさえしまえば,もうすっかり馴染になっている番人のO老人夫妻がすっかり心得ていて何かと世話を焼いてくれるので,急に田舎の親類の家へでも着いたような気になるのである。
<引用終わり>

と,まあこんな感じで,淡々と,飄々と綴られていきます。

 エッセイとは言いながらそこは科学者ですから,研究に絡めていろいろと書かれているわけですが,それも理論的な方向からではなく、それ以外の部分・・・モノを調べるに当たっての発想とか、工夫とか、苦労とかが書かれていて、参考になるしハッとさせられます。

 前準備なしで読んでも勿論おもしろいんですけど、以下のようなことをあらかじめちょろっと自分で考えておくと、更におもしろく読み進められるかもしれません。

1.もし-50℃の低温室が与えられたら、どんな実験をしてみるか。
2,茶碗に入れた一杯のお湯から,物理学的にどんなことが考えられるか。
3.線香花火はなんでぱちぱち火花がとぶのか。
4.平滑な平面上にタマゴを立てようと思ったら,どうすればいいか。
5.霜柱を研究しようと思ったら,何をどう調べればいいか。

 「理系」「科学者」って、しばしば「頭はいいけれど、物事を理詰めで考えて、人間的な情緒を理解しない人」的な言われ方をしますけど、この本を読んだ後では、そんなこととても言えません。その発想力と想像力と感性の豊かさに,最初から最後まで驚かされっぱなしでした。
 ステレオタイプな科学者像をくつがえすに足る、情緒と軽妙なユーモアに富んだ一冊です。

 心に残った言葉はいろいろあるんですが,当ブログのテーマにも一脈通じる文章を最後に引用しておきます。

<p.128 より引用開始>
 統計くらい確かなものは無いと同時に,統計くらい嘘を言うものも少ないとは,よく言われていることである。それと同じように,科学的研究の結果も,一つ間違うと,とんでもない非科学的な結論に導かれやすいような気もする。
 「科学を尊重せよ」ということと,「科学を警戒せよ」ということは、両方とも本当なのであろう。
<引用終わり>

 むむ、全集が出てるのか・・・いつか読んでいきたいですね。

<注釈>
※1
 軍隊のお話とか、「飛行機を潰して戦車を作る」とか出てきます。戦争の真っ只中に書かれた文章もいくつもあります。
 戦中にもこれだけ豊かな文章が生み出されていたんだなあ。

|

« コメント欄までご覧いただいているみなさまへ | トップページ | 「マイナスイオン」が科学的な地位を確立する上で必要なこと »

書籍・雑誌」カテゴリの記事

コメント

 しまった!!
 そんなに面白い本だったのですか。
 だいぶ前に買って、そのまま平積みされたままになっておりました。
 
 >「科学を尊重せよ」ということと,「科学を警戒せよ」ということは、両方とも本当なのであろう

 うわぁ、とってもcool。

 本の魅力が伝わってきましたよ。

 これは読まないといけません。どうもありがとうございました。

投稿: どらねこ | 2009年4月19日 (日) 11時19分

 どらねこさん,こんにちは。コメント有り難うございます。

> しまった!!
 そんなに面白い本だったのですか。

 存在自体は前々から知っていて,でもなんとなく買いそびれていたのですが,今回思い切って「科学の方法」とセットで購入して,正解でした。

 いい本ですよー。味があるだけじゃなくて,いろいろなヒントになることがしっかりと盛り込まれています。「うおぉっ,そんな風に発想するかぁっ」って,何度か叫びそうになりました(叫ばなかったけれど)。
 「霜柱」の話は,打ちのめされましたw 女学生,侮りがたし orz

 エッセイで,語り口は軽いのですが,それが私には合ったみたいです。どらねこさんにも気に入ってもらえるといいなあ。

投稿: ハブハン | 2009年4月19日 (日) 19時28分

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/204975/29174764

この記事へのトラックバック一覧です: 読書感想_「雪は天からの手紙」:

« コメント欄までご覧いただいているみなさまへ | トップページ | 「マイナスイオン」が科学的な地位を確立する上で必要なこと »