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ウミガメのスープ

水平思考推理ゲーム、というモノがあります。単行本形式で発売されていますが、それなりに人気があるのか、シリーズ化されており、同様の趣向の本が他にもイロイロ発売されています。

 やり方を簡単に説明すると、一人が出題者になり、他の人たちが解答者となって定められた答えを見つける、というモノです(※1)。
 出題の実例を見てみましょう。おそらくは最も有名な問題の一つであり,シリーズ一冊目の表題でもある「ウミガメのスープ」です。

 男がレストランに入り,メニューから「ウミガメのスープ」を頼んだ。それを一口食べた彼は,レストランを飛び出し,持っていた拳銃で自殺してしまった。

 どうでしょう。訳わかんないですよね。それぞれの文章に、何のつながりもないように思えます。
 でも実際には男の行動には合理的な理由があり、背後には万人が(多分)了解可能なストーリーが隠されています。それを見つけ出す、と言うのが解答者の目的になります。

 このゲームの大きな特徴は、解答者は出題者に対して、自由に、いくつでも質問を繰り返せるということ。ただし,出題者の回答は「はい」「いいえ」「関係ない」の3種類に限られます(YES/NOで回答できなかったり,言葉が曖昧だったり,複数の意味を含んでいたりした場合は「答えられない」というのもあり)。
 上の例だったら,こんな感じの質疑応答になります。

「男の自殺は、ウミガメのスープを食べたことと関係している?」 →「はい」
「男はウミガメのスープを食べる前までは、自殺する気はなかった?」 → 「はい」
「ウミガメのスープには毒物や薬物が含まれていた?」 →「いいえ」
「男はレストランに車で来ていた?」 → 「関係ない」
「男がウミガメのスープを食べるのは初めてだった?」 → 「答えられない」

 原則「はい/いいえ」でしか答えが得られない、と言うのが、このゲームのキモです。解答者はまず自分の推測を組み上げ、それが正しいかどうかを問う。そうして得られた回答を土台にして、次の推測を進めていきます。
 どれだけ幅広く発想の枝を伸ばせるか、得た答えから適切に論理のフルイで候補を絞り込んでいけるか、この2点で解答者の能力が試されます。

 問題と正解が一段階の推測でリンクするようなものであれば、推測は簡単です。例えば、
問題:「男が沼に液体を流した。沼の魚は全て死んでしまった」
正解:「男が沼に流した液体は毒薬だった」

といったものであれば、液体=毒薬というリンクが完成した時点で終了となります。

 でももし、
正解:「男が沼に流した液体は大量の油だった。油が沼の表面を覆って水中の酸素が不足し、魚は酸欠で死んでしまった」
となると、推測を複数ステップ積み重ねて正解を導く必要が出てきます。この場合はまず魚の死因が中毒死ではなく酸欠死であったことを突き止めた上で、男の流した液体が油であったという推論が導き出されるでしょう。
 ステップが多くなればなるほど,問題は複雑になり,難易度は増します。

 このゲームをプレイする際には、以下のようなポイントを理解していることが重要です。

・問題から導き出される,論理的に正しい推論が、一つではない。
  このゲームは「推理」と銘打たれてはいますが,論理パズルではありません。問題から解答が一意的に導き出されるようなモノではないのです。出題者と解答者の間の 質疑応答によって,情報をどんどん積み上げて行く必要があります。解答を聞いた後で「それなら○○が××であったとしても成り立つじゃないか」「そんなの、分かる訳ない じゃないか」といったブーイングがでるとしたら、ここの部分で誤解が生じている証拠。

・「答えられない」という回答がとても重要
 上の例を再確認してほしいのですが、「男がウミガメのスープを食べるのは初めてだった?」という問いかけに対して「答えられない」という回答が、通常出てくるでしょうか?
 「答えられない」と言われた場合、まず自分の問いかけが複数の質問を含んでいないかどうか、矛盾を含んでいないかどうかを検討し、もし質問の仕方に問題が無ければ、これは正解にたどり着くためのキーポイントです。
 解答者の質問は自分の推測が合っているか間違っているかを確認するためのものです。「答えられない」という回答は、そこに自分の推測を超えたモノが潜んでいることを意味しています。

 ちなみに「ウミガメのスープ」の解答はこちら(ネタバレになりますので,この問題をイチから楽しみたいかたはご注意ください)。

『TRPGは何でないのか—水平思考推理ゲーム「海亀のスープ」の記録』

 テーブルトークRPG関連のサイトにある論考の中の一部ですので,アタマの方は読んでも分からないと思います。中盤から「ウミガメのスープ」についての記述が始まります。
 問答がそのままログになっていて,ゲームの進め方がとても分かり易いです。

 このゲームは,プレイを通して以下の事が学べます。

1.表に見えている情報は、全体の中のごく一部分でしかないと言うこと
2.表に見えているものをつなぎ合わせる論理は、一通りとは限らないということ。

 最初の出題文が荒唐無稽であればあるほど,これらの事が鮮烈に印象づけられます。

 ここで話を繋げますが(^-^; 私、これ、ニセ科学(トンデモ話)に騙されないための、重要なファクターなのかな、と思います(※2)。
 情報が欠落していると,ごく単純な推測では論理の糸が繋がらないために「不思議だ。科学では解明できない」となるんですが、単純な推測を積み重ねて論理をつなげる訓練をしておくと、「不思議だが、欠落した情報を埋めれば説明できるのではないだろうか」と考えられるようになる・・・かも。まあ,現実の場合,たいてい派手な尾ひれがくっついているので,まず正否を切り分ける所から始めなければいけないんですけど(^-^;

 一つ、オリジナル?の問題を作ってみました。

 19世紀、遠洋を航海していた交易船が、漂流している1隻の帆船を見つけた。帆船には人っ子一人いなかったが、食事の準備がされており、器に盛られたスープは手付かずのまま残されていた。吸いかけのタバコや使いかけのかみそりがそのまま放置されており、まるで日常の中から忽然と人だけが消え去ったようだった。(※3)

<注釈>
※1
 解答者が一人だと,どうしても手詰まりになりがち。複数の解答者でワイワイやった方が楽しいし,ブレインストーミングの練習にもなります。

※2
 真逆(まぎゃく)に機能すると,不思議の無いトコロに不思議を見いだしてしまう陰謀論者になってしまうのかも(^-^; 推測に推測を重ねる,のではなく,推測から事実を確定させ,それを土台にして次の推測を導く,という段階的な検討が重要なのです。発想と論理,バランスが大事ですね。
 一番最初に自分のストーリーを作ってしまって,それを崩せない人は,ひとつ否定されるとすぐ手詰まりになります。

※3
 有名な話ですね。不思議な話の代表みたいに扱われますが、ウィキペディアに詳細な解説が載せられています。真相を知らない人が集まれば,実際ゲームになりそうな気がします。今度やってみよっと。

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