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読書感想_代替医療のトリック

 いやあ、やっと読み終えましたよ。

「代替医療のトリック」サイモン・シン、エツァート・エルンスト著 新潮社

 と、いうことで、出遅れ感は否めませんがw 感想、というか、書評、というか、内容紹介を書いてみたいと思います。

1.本書の構成
 本書は第I章〜第VI章、並びに付録及び文献紹介で構成されています。以下、章ごとにご紹介と感想を書いていきます。

第I章 いかにして真実を突き止めるか
<主に取り上げられている内容>
 本書の目的「科学的根拠にもとづく医療」の詳しい解説。その歴史と手続と効果。フローレンス・ナイチンゲールかっけー。

<感想>
 「科学的根拠にもとづく医療」の概要とその効果が、瀉血(古代から近年にいたるまで続いていた代表的な医療行為)の検証、壊血病、喫煙の研究などを軸に、詳細に紹介されていて、とてもタメになります。
 本書の定価は2520円(税込)。決して安いものではありませんが、この第I章だけでお釣りがきます。

(p.57より引用)

 《科学的根拠にもとづく医療》の威力に疑問の余地はないにもかかわらず、この考え方に疑惑の目が向けられることがある。医療界の主流派が派閥の構成員とその治療法を擁護し、代替医療に従事する部外者を排斥するための戦略だと考える人たちがいるのだ。しかしすでに見たように、真実はその逆であることが多い。なぜなら、《科学的根拠にもとづく医療》は、部外者の意見に耳を傾けるものだからである。このアプローチは、効果があると判明した治療法は、それがどんなものでも、その治療法を支持しているのが何者であっても、そしてその治療法がどれほど奇妙に見えようとも、それを認めて受け入れる。壊血病の治療としてレモン果汁を与えることは、およそ信じられないような治療法だったが、臨床試験によって科学的根拠を与えられたため、主流派はそれを認めざるを得なかった。一方、瀉血はごく普通に行われる治療法だったが、臨床試験によって科学的根拠を突き崩され、主流派はついに、自分たちの治療法である瀉血を捨てなければならなかった。

 ここで言う「科学的根拠」とは、メカニズムの解明ではなく、効果の確認を主眼においた用語であることを強調しておきます。最初だけ「エビデンス=ベースド・メディシン」とルビが振ってありますが、こちらの用語をメインで使った方が、誤解は少なかったかも。
 よく「効果があるのに、メカニズムが未解明であるために不当な攻撃を受けている」的な説明をする代替医療関係者がいますが、そうではなくて、彼らはまず「そもそも効果が見られない」コトを指摘されているのです。

第II章 鍼の真実
<主に取り上げられている内容>
 プラセボ効果、盲検法、発表バイアス、コクラン共同計画による系統的レビューなどについての詳細な説明。アーチー・コクランかっけー。ついでに鍼治療の評価。

<感想>
 この章でも、この後の章でも、個別の代替医療に対する評価に加えて、科学的に検証するうえで重要な概念の説明に多くを費やしています。そしてそれが、理解を深める上でとても有効に機能しています。

 ところで、鍼治療の是非についてはkikulogのコメント欄でも意見が交わされています。
長妻厚生労働大臣、予算委員会でホメオパシーについて(も)語る?

 鍼治療を擁護なさるかた、というか、鍼灸師のかたがいらっしゃって、本書の中の検証方法(対照群に対し、ツボをずらして針を打つ、ごく浅く針を打つなどの方法を採っていること)について異議を唱えていらっしゃったりします。曰く「なのでツボの位置が少し変化しても、浅く打っても深く打っても、ちゃんとした治療をしたことになります。

 えーと、この世で最も否定されづらい主張は、以下のようなものだろうと思います。
「ナニかをドウにかすれば、ナニかしらの効果が得られる」
 これ、ナニも言ってないのと同じですよね。ナニも限定されていないので、意味もありません。主張とはすなわち限定であり、主張に矛盾・対立する事柄を否定することです。そして同時に、自分が否定されうる条件を示すことでもあります。
 科学的な検証に対し「主張が違う」と言うのは構いませんが、じゃあ本当の主張はなんなのか、それを明確にしないと、「ナニかをドウにかすれば・・・」って言ってるのと同じになってしまいます。もしかして、鍼治療なんかしなくても、いや、ナニもしなくても、「鍼治療の効果」が得られちゃったりして。

(p.118より引用)

 実際、バイアスを極力小さくするという点で臨床試験はきわめて有効なので、通常医療の研究でも重要な役割を果たしていることを覚えておいてほしい。イギリスの科学者で、ノーベル賞受賞者でもあるサー・ピーター・メダワーは、それを次のように明解に語った。

 薬の効能を大げさに言い立てる者が、人を騙そうとしてやっていることはまずめったにない。そういう大げさな言葉は、思いやりあふれる共謀の結果として、よかれと思う気持ちとともに出てくるのが常だ。患者はよくなりたいし、医者は患者を治したいし、製薬会社は医師の力になって患者の役に立ちたいのだ。対照比較試験は、そうした“良かれと思う心”の共謀に取り込まれないための試みなのである。

 主張を明確にすることは、対照比較試験によって検証され、正当性を認めてもらうための第一歩。ですが、否定されたときに受け入れる覚悟がなければ踏み出せない一歩でもあります。

第III章 ホメオパシーの真実
<主に取り上げられている内容>
 ホメオパシーの歴史。隆盛と衰退、そして復活。疫学的な考え方。ジョン・スノーかっけー。1800年代から利用されるようになったワクチン、殺菌消毒がもたらした大躍進。「ネイチャー事件」の顛末。体験談の羅列に意味が無いこと。メタアナリシスの詳細な説明。ついでにホメオパシーの評価。

<感想>
 誤りの可能性を含みつつ、知見を柔軟に更新・改善していくのが科学の特徴であり、特長であるわけですが、一度誤って採用された主張を訂正する行為は、時に科学者にとってすら難しいものだということが本章でわかります。どんな研究も多かれ少なかれ願望をもって始められるものだと思うのですが、それが検証の段階まで引きずられてしまうこともあるのでしょうね。

(p.149)ヨーロッパでは、ヴィクトリア女王の侍医だったサー・ジョン・フォーブズが、ホメオパシーは「人間の理性に対する侮辱」だと述べた。

 か、カッチョいい・・・ちょっと言い回しを拝借します。

 一部のホメオパシー団体やホメオパスが、通常医療を根拠なく批判し、否定し、拒否する行為は、人間の善意に対する侮辱です。

第IV章 カイロプラクティックの真実
<主に取り上げられている内容>
 カイロプラクティックの概念。ビル・シルヴァーマンかっけー。カイロプラクティックの有効性評価。整骨療法との違い。カイロプラクティックのマーケティング的側面。カイロプラクティックの危険性と、受診するときの注意点。通常の医師と代替医療の施術者、果たしてどちらが本当に患者をキチンと診ているのか。

<感想>
 なんと言うか、「自分の治療の効果を確信している」施術者って、コワいです。

(p.246より引用)

 代替医療セラピストのなかには、危険な病気の人に無益なレメディを売るという行為を納得ずくでやり、金を儲けて満足している人もいるだろう。しかし本章を終えるにあたって強調しておくべきは、セラピストの大部分は、心から良かれと思ってやっているということだ。誤った考えに導かれたセラピストは、患者と同様、治療が効くと信じているのである。

 自分の行為、自分の治療は、本当に効果があるのだろうか、本当に相手のためになっているのだろうか。そういう疑念と葛藤を経て、なお患者を治療するコトに情熱を持ち続けているお医者さんがいるなら、私はそういうヒトにお世話になりたいなあ。モチロン、通常医療で。

第V章 ハーブ療法の真実
<主に取り上げられている内容>
 効果のあるハーブと無いハーブ。自らの経験を確信することの危うさ。自然のモノにだって副作用はありうること。ハーブの中には絶滅が危惧されるものが含まれていること。医療ネグレクト。エミリー・ローザかっけー。相関関係と因果関係。祈りの効果。

<感想>
 この章のみ、やや肯定よりのニュアンスで書かれています。と言っても、ハーブ療法は範囲が広くて、科学的に効果が検証されたものもあれば、効果がないもの、害があるものまで色々含まれています。でもホメオパシーと違って「当たる場合も有るギャンブル」です。
 つーか、ハーブ医療なんてくくり方をせずに、キチンと検証されたものをピックアップして利用すればいいんだと思います。または、害が無いことさえ確認されているなら、純粋に嗜好として楽しむのは全然アリですよね。

 あと、効果が有るハーブも通常医療を凌ぐものではなく、かつ副作用もあるコト、医療ネグレクトにつながるなら、やはり害になりうるコトは、重要な指摘だと思いました。

(p.264より引用)

 「第一に、害をなさないこと」という教えは、ヒポクラテスの誓いのひとつだと広く信じられているが、実はそうではない。それでもこの信条それ自体は、ヒポクラテスに由来するとみられている。彼は『流行病について』という著作のなかで、これとよく似たアドバイスを医者に与えているのだ。「病気については、二つのことを習いとせよ。有益なことをするか、あるいは少なくとも害をなさないこと」
 現代医学はヒポクラテスのこの言葉を、危険性と受益性を天秤にかけなければならないという教えと解釈している。なぜなら今日では、ほとんどすべての医療介入に、副作用のリスクが有ることが判明しているからだ

 ハーブも例外ではありません。
 「天然=安全」信仰は根強いですが、ハーブを利用する人は、ハーブの副作用をキチンと認識し、把握した上で利用するべきです。これは漢方などにも言えることですね。なお本書では、漢方(の薬草)もハーブの中に含めているようです。

第VI章 真実は重要か?
<主に取り上げられている内容>
 チャールズ皇太子カコワルイ。プラセボ効果のみにもとづいて代替医療を選択することの是非。代替医療は本当に安価なのか。効果が証明されていない、または反証された医療を広めた責任者トップテン。医薬品の検証過程。代替医療の検証の提案。

<感想>
 「トップテン」が挙げられていますが、批判対象は九つです。メディア、栄光のダブル ランクインw
 代替医療の効果を大げさに書き立てる面、通常医療のリスクを大げさにあげつらう面がそれぞれ批判されています。

(p.345より引用)

 マスメディアは、大衆に必要な情報を提供するために、責任ある態度で医療問題を取り上げるのか、それともショッキングな記事にしたいがために恐ろしげなレポートにするのか、立場を決めなければならない。残念ながら、メディアには利益を上げたいという動機があり、自制心が足りないため、今後も後者の魅力に逆らうのは難しいだろう ー なにしろ恐ろしげなデマを飛ばすことは、実に簡単なのだから。

 センセーショナリズムでしかメシを食えない一部のメディアは、節制を失った焼き畑農業に似ていますね。食い散らかして、後のことは考えない。

(p.372より引用)

 興味深いのは、安全で有効であることが証明できる代替医療はなんであれ、実は代替医療ではなく、通常医療になるということだ。つまり、代替医療とは、検証を受けていないか、効果が証明されていないか、効果のないことが証明されているか、安全でないか、プラセボ効果だけに頼っているか、微々たる効果しかない治療法だということになりそうだ。
 しかし、代替医療のセラピストたちはあいかわらず、勲章のように「代替」という言葉を冠し、不十分な治療法に不当な尊厳を与えるために利用している。彼らは「代替」を称することで、科学からこぼれ落ちている何かを拾い上げているというイメージをまとわせようとしている。

 「科学では分からないことが有る」というセリフを言うときには、科学で分かることが有るコト、そしてそれがしばしば非常に強力であるコトなどはないがしろにされます。しかしそれらをないがしろにするのであれば、「医療」を名乗るべきではないと思います。

付録 代替医療便覧
 各代替医療の科学的根拠に基づいた評価。アーユルヴェーダ、アロマテラピー、サプリメント、酸素療法、指圧、吸い玉療法、スピリチュアル・ヒーリング、デトックス、etc,etc...

 付録で挙げられている代替医療の大半を知っていることに鬱。まだまだ知らなかったモノもたくさんあることに、更に鬱。

 ここに挙げられているすべての代替医療の、すべての効果が否定されているわけではありません。が、ほとんどの効果は否定されており、かつ危険性が指摘されている代替医療も少なくありません。
 詳しく取り上げられている4つの代替医療について言われていることが、他の代替医療に対してもおしなべて適用できると思って、大枠間違いはなさそうです。

2.総評
 本書では各代替医療の科学的評価を具体的に行っていますが、それと同じくらい、あるいはそれ以上に、科学的な手法や考え方の紹介に力を入れていると感じました。
(1)プラセボ効果や確証バイアスなど、直感と真実の直結を妨げる様々な要因の説明
(2)比較対照試験、疫学、二重盲検法その他、基本的な科学的手法の紹介
(3)実際の医薬品の検証過程の紹介
などなど・・・
 これらが包括的に、詳細に、丁寧に説明されており、とても勉強になります。
 ただし、これらの情報は各章に分かれていて、段階的に理解が深まるように構成されています。自分が気になる代替医療の章だけつまみ食いすると、分からない部分、納得出来ない部分が出てきてモヤモヤするかも知れません。読むときはアタマから読み進めるのがいいです。

 本書はすべての人におすすめですが、私が特におすすめしたいのは、次のようなかた達です。

  • 代替医療に興味が有るヒト
  • みんなが利用しているのだから、代替医療には何らかの効果が有るのではないか、と考えているヒト
  • 通常医療と代替医療の違いがどこに有るのかよく分からないヒト
  • 「ホントの効果がなくたって、患者が満足するなら、プラセボ効果があるならいいじゃん」と思ってるヒト
  • 「代替医療が受け入れられないのは、製薬会社が儲けるために弾圧してるんだ」と思ってるヒト
  • 手っ取り早く、効果の有る代替医療、効果のない代替医療を知りたいヒト

 世の中に溢れているさまざまな医療や代替医療について、イチから情報を収集し、比較し、判断することは(私自身を含め)一般人には難しいコトですし、その状況は今後も大きく変わらないでしょう。しかし本書のように、情報がキチンとした考察を伴ってまとめられ、提供されるのであれば、それを理解し、支持するコト、あるいは少なくとも一歩引いて考えるコトができる自分でありたい、できる社会であって欲しいと思います。
 病気や死は、人生において逃れがたいものですが、どうかひとりでも多くのヒトが、自分のために、そして自分の大切な人のために、ベストの選択をできますように。そして、ベストの選択をしたいと思っているヒトを惑わせるような情報が、少しでも減りますように。


 以上、とてもおもしろく読み終えたのですが、プラセボ効果の医療への適用については、やや私の考えと異なる部分もありました。うまくまとめることができれば、次回その点にちょっと言及してみたいと思います。

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コメント

詳しい情報をありがとうございます。
アンチワクチンを調べているものです。
代替医療に多いんです、アンチワクチン。
この本は気になっていましたが、
難解なような気がして、手が出ません。
が、手にしてみようと思います。

投稿: katahorihou | 2010年3月 8日 (月) 23時28分

 katahorihouさん、こんにちは。コメントありがとうございます。

 えーと、ワクチン関係については、この本にはあんまり出てこないかも知れません(^-^;
 基本的には「科学的な根拠をもって、代替医療に効果が有ると言えるか」が主題で、一部の代替医療関係者がやらかすアカンたれな行動(ワクチンの拒否を含む)について、詳しく紹介・批判されているわけではありません(ゼロではないですけど)。

 でもでも、それを抜きにしても、代替医療の可否を、根拠をもって判断するうえでとても有用な材料になりますし、科学の考え方や手法について、基礎から網羅して学べる点もポイント高いです。

 読みやすさについては、同じ著者・訳者の「フェルマーの最終定理」よりも、更に分かりやすく書かれていると、私は感じました。翻訳書独特のクセが皆無、という訳ではありませんが、そのせいで読めない、読みづらい、ということは全くありません。
 興味をお持ちであれば、まず問題ないと思いますよ。

 もしお読みになったら、ぜひぜひ感想など聞かせてくださいね(^-^)

投稿: ハブハン | 2010年3月 9日 (火) 22時31分

今更ながら読みましたよ。
貧乏なもんで図書館で借りて。
しかも、近所の図書館においてなかったので、
取り寄せてもらって。

んなこたど~でもいいんですが、
難解じゃなかったです。私にも理解できました。

科学は明確な論理に基づき知識を積み重ねっていっていると再確認しました。

投稿: katahorihou | 2010年9月11日 (土) 17時36分

katahorihouさん、こんにちは。コメントありがとうございます(o^-^o)

 こういう本って、高いですよねー。
 価値のある本はなるべくお金を出して買いたい、って思うんですけど、なかなかママなりません(^-^;
 それにしても、図書館に置いてなかったんですか・・・なんか、残念ですね。

 科学がすごいのは、他よりも正しいトコロ、ではなく、みずから間違いを認められるトコロ、だと思ってます(結果から言えば同じことですが)。「代替医療のトリック」でも、試行錯誤を経つつ間違いが修正されていくクダリが丁寧に紹介されていて、勉強になりました。

 でも、社会的にそれを許容しようと思ったら、いま私たちの生活の中で正しいとされているモノが、実は正しくないかも知れないことを承知しつつ受け入れる必要があるんだけど、それが難しいヒトも多そうです。

 間違いを認められないヒトたちがどうなってしまうのかについては、いま具体的な例がリアルタイムで進行中ですが、彼らがそういう態度をとってしまう原因の一つとして、受け手側の問題があるのだろうと思います(敢えてそういう属性のヒトを取り込んで商売してるんだから、同情の余地はないけど)。

投稿: ハブハン | 2010年9月11日 (土) 23時48分

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