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日経サイエンスの記事で代替医療に言及されていた

 

日経サイエンス(2011年01月号)に「自閉症“治療”の危うさ」という題で記事が寄せられていました(93ページ〜)。
 自閉症に有効な治療法がないために様々な代替療法が利用されているコトについて書かれた記事で、アメリカの状況を伝えるものですが、参考になるかと思うのでご紹介。

<代替医療を選択する親たち>

 レイドラー(Jim Laidler)は長男ベンジャミン(Benjamin Laidler)が自閉症と診断されて以来、妻とともに治療法を探してきた。
(中略)
「誰も『これが原因でこうして治療します』とは言ってくれなかった」
 だが、オレゴン州のポートランドに住むレイドラーがインターネットで検索してみると、ベンジャミンの言動や対人相互作用(他者の仕草や雰囲気から感情や考えを読み取る能力)に関する障害を改善できるとか治すことさえできるとうたった“生物医学的な”治療法が山ほど見つかった。そこでレイドラー夫妻は、それらの治療法を息子に試すことにした。
 まず、ビタミンB6やマグネシウム、ジメチルグリシン、トリメチルグリシン、ビタミンAなどのサプリメントから始め、グルテン・カゼイン除去食や消化管ホルモンであるセクレチンの投与、体内の鉛や水銀を排出するための薬を使うキレート療法なども試した。
(中略)
 レイドラーにもわかっていたはずだ。彼は麻酔科医で、息子に試した治療法が医学的判断基準として最も信頼性の高い無作為臨床試験で確かめられていないことを最初から知っていた。「最初はやめようと思った」と彼は言う。だが、期待が疑念を打ち負かした。
(中略)
 いくつかの研究によると、自閉症の子どもの実に75%が、従来の医学的な開発方法に基づいていない“代替”療法を受けているという。

 健康を無頓着に享受している私たちはよく「なぜこんな怪しげな療法に手を出してしまうのだろう」などと感じてしまうのですが、病気に苦しみ、また家族の病気に苦しんでいる人たちにとっては、「半信半疑」、いや「一信九疑」なら、十分に試す価値のあるものと捉えてしまうのでしょう。
 私はありがたいことに健康に暮らせていますが、将来同じ境遇に置かれたら誘惑に抗えるのかどうか、自信はありません。

<林立する代替療法>

 厳密な臨床試験を通った治療法がないので、期待を抱かせるような未試験の治療法を売り込むことはとても簡単だ。
(中略)
「親たちはかなりのストレスにさらされており、子どもがよくなることを一心に願っている。時間が経つとよくなったように見えるので、間違ったものを信じてしまう」。パレットによると、よくなったのは“治療”のせいではなく、年齢とともに子どもが成長したからだという。
 インターネットは詐欺師だらけだ。あるサイトは299ドル(約2万4000円)の本を買えばお子さんの自閉症が治るとうたい、別のサイトでは“幹細胞注入で改善した自閉症の少女”のビデオを売っている。
(中略)
 期待の代償は安くない。例えば加圧療法の場合、潜水病の治療などに使われる高圧酸素室に入って血中酸素濃度を一時的に高めるのだが、1時間あたり100ドル(約8000円)以上かかる治療を毎日1〜2時間受けることを推奨している。

 加圧療法、感覚統合療法、サプリメント、免疫グロブリン、幹細胞、リュープリン、キレート療法・・・有効な方法を必死の思いで探している親たちは非常に難しい状況に置かれます。慎重に調べ選択したとしても結局は「程度の低い無意味を避け、より高度な無意味を選ぶ」だけの行為になってしまいそうなくらい、自閉症の周りには代替療法が溢れています。
 それが効果の証明されていない治療法だと知ってもなお、将来認められる、実は有効な治療法かも知れないという希望、ダメもとで試したみたいという思いを振り切るのは困難でしょう。

<「白衣を着たまじない師」>

 ジャングレゴリオ夫妻(Michael and Alison Giangregorio)は、息子のニコラス(Nicholas Giangregorio)が2歳で自閉症と診断されたとき、応用行動解析など、科学的根拠に基づいた治療法だけを使おうと決めた。「息子を助けることは困難だが、やってみたいと思う」とジャングレゴリオは言う。「実験的な治療法を試すつもりはない。求めているのは、医師や研究者が時間をかけて証明し、害がないことがわかっている治療法だ」。
(中略)
 レイドラーがこれと同じ考えに達するまでには、紆余曲折があった。息子に代替療法を受けさせはしたが、こうした治療法は科学的に厳密に評価する必要があると代替療法の提供者に訴えた。「比較対照はあるのですかと繰り返し質問し続けた」。彼の長男は現在17歳になったが、この先も自活は出来ないだろう。だが、次男は普通の中学校に通っている。
 51歳のレイドラーは、一家が試した治療法の多くについて「基本的には白衣を着たまじない師を信じるようなものだ」という。何千人もの親たちは、科学によって効果のはっきりした薬が開発される日を待ち望んでいる。

 医学は進歩します。過去、医学が進歩し、治療できなかった病気が克服されてきたのを目撃している親たちは、自閉症についても、やがては治療法が進歩し、治る病気になっていくと思っているのでしょう。
 そして、将来治るようになるからには、いま証明されていないモノの中にそれが含まれているかも知れないという希望をいだいてしまうのかも知れません。
 でもその希望は結局「白衣を着たまじない師」を肥え太らせ、家族から時間と、資金と、他の(もっと有効な)選択肢を奪ってしまうモノでしかありません。

<最後に>

 囲み記事では、現在の状況について以下のように総括されています。

現状を包括的に眺めると、自閉症に対する決定的治療法が存在していないことは事実だが、療育的手法、薬物療法、さらにはソーシャルスキル・トレーニングなどを適時用いながら、家族へのサポートや啓蒙を並行して行うことにより、子どもを含む家庭の状態が大きく変わることを期待できる段階には達しつつあるように思われる。

 私たちは未来の治療法を先取りすることは出来ません。将来どんな素晴らしい治療法が生まれてこようと、今この瞬間、目の前にある選択肢の中からベストを選ぶしか無いのです。

 そしてベストは代替療法ではなく、科学的根拠に基づいた通常医療の中にあります。それがどんなにささやかな効果しか保証してくれなかったとしても、です。

 わが子を何よりも大切に思っている親たちが、様々な疑念や誘惑に惑わされることなくベストの選択を出来る社会を、私は望みます。

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