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読書感想_毒と私

 本を読みました。由井寅子さん著「毒と私」幻冬舎
 日本ホメオパシー医学協会の代表のかたがお書きになった本です。

 帯のアオリはこうです。

山口県乳児死亡事件をきっかけに「ホメオパシー」は、いつしか“悪質療法”に変えられたー
なぜ真相は葬られたのか?
日本にホメオパシーを広めたカリスマがいま、日本の闇を明らかにする!

 なお、「山口県乳児死亡事件」についてはsukeptic's wikiでまとめられています。

ビタミンK不投与事件

 ホメオパシーがカッコ付けになっていることや、「日本の闇を明らかにする!」という表現が、とっても示唆的だと思いました。おそらくアオリを考えたかたの意図とは逆方向で。
 私たち自身の努力で、日本の闇を少しずつでもなくしていきたいですね。

 さて、本を読んでほんのちょっぴり疑問を感じたので、書いてみます。

<「はじめに」を読んで>
 冒頭に、裁判についての記述があります(裁判はこの事件に関連して遺族の方が助産師に対して起こしたもので、2010年に和解が成立しています)。
 大枠は日本ホメオパシー医学協会のホームページ内にある、ホメオパシー新聞の記事のまとめみたいなものですが、いくつか新しい内容を含んでいます。

(p.2より引用)

 一方、訴訟を起こしたとき、原告の母親は第三子を妊娠していました。今回、彼女は病院の産婦人科医のもとで出産を行ないました。生まれた子どもは、おそらく改定後の投与法に準じてビタミンKを十分に与えられたことでしょう。ところが、この第三子も生後4ヶ月で死亡してしまったのです。

 コレについてはすでに助産院は安全?さまにて関連エントリが挙げられています。

山口VK2ご遺族からのメッセージ

私たちの3番目の赤ちゃんは、心筋症でなくなりました。

しかし、本のなかでは、
3番目の赤ちゃんの死も(2番目の赤ちゃんと同様に)ビタミンK欠乏が原因であり、
ビタミンK2シロップを投与しても防げなかったのだと解釈できる表現があるようなので、
「予防接種」に疑問や不安を抱えているご家族をビタミンK2シロップの接種から
遠ざけることになってはいけないと思い、赤ちゃんの死因について公表することにしました。
(中略)
これから生まれてくる赤ちゃんには、
ぜひビタミンK2シロップを与えてください。
それでも亡くなる赤ちゃんも確かにいますが、
与えて亡くなるのと、与えないで亡くなるのでは、
残された家族の気持ちも変わってきます。

 お亡くなりになったお子さんのご冥福をお祈り致します。また、つらい思いをおして、メッセージを公開なさっておられるお母様に、敬意を表します。

 さて、上に引用した部分では第三子がビタミンK欠乏が原因で亡くなったように受け取れるのも確かですが、本文は以下のように続いていて、全体を通してみると更にいろいろな読み方ができるようです。

 第三子が亡くなられた直後、原告(母親)は、被告(助産師)と和解をしました。以前から私は、母親本人にビタミンK投与の是非をきちんと確認したのだ から、会員本人、そしてホメオパシーの名誉を守るためにも徹底的に事実を明らかにすべきと説いていました。これに対し日本助産師会の弁護士は、穏便に済ませるべきであると主張し、被告の助産師は和解案を受け入れました。訴訟の当事者は私ではないので、それ以上の介入はできませんでした。
 2010年12月21日、和解が成立しました。そして和解が成立した後に、私は第三子が死亡していた事実を知りました。
(中略)
 なぜ、日本小児科学会は、改定したばかりの新しい投与法を突然取り下げ、旧来の投与法に戻したのか? これはあくまでも私の推測ですが、新しい投与法に 伴い、ビタミンKの副作用(たとえば核黄疸「新生児黄疸の重症型」など)が出た可能性が疑われます。そうでもない限り、あの状況で旧来の投与法に戻すことは考えにくいからです。

 ご遺族のかたからのご指摘に加え、この文章は、読者が以下のように受け取ってしまいかねない書き方がされています(以下に書くことはすべて事実無根ですので、ご注意ください。あくまでも、本の記述から解釈できる内容として書いています)。(※1)

(1)
 第三子はビタミンK投与「にも関わらず」亡くなったのではなく、ビタミンK投与の結果「副作用によって」亡くなった
(2)
 ビタミンKの副作用による死亡発生を受けて、日本小児科学会が投与法を旧来に戻した
(3)
 第三子が亡くなったことで、原告側が裁判に関する方針を「和解」に転じた
(4)
 和解が成立するまで、第三子が亡くなった事実が(意図的に)伏せられていた

 また、これらのことからさらに、読者が以下のように類推してしまう可能性があります(これらも全くの事実無根です。重ねてご注意ください)。(※1)

(5)
 第二子はビタミンKの投与があってもなくても、けっきょく死亡を避けることはできなかったのではないか
(6)
 原告はビタミンKの不投与が死亡原因でないと気づいたので、裁判を長引かせることなく和解したのではないか
(7)
 第三子の死亡が裁判上(和解を成立させる上で)不利なので、情報を伏せたのではないか

 読者に間違った解釈をさせてしまう可能性のある、このような文章の書き方は、すごく不適切だと私は思います。
 著者は「そんなことは書いていないし思っていない」と言うかも知れません。しかしそうなら、そもそも第三子がお亡くなりになったという、本来的に無関係なことを「私たちの把握している事実」と称し、結果的にご遺族の心をさらに傷つけてまで、裁判に絡めて記述することの意図はいったいなんなのでしょうか。
 誤解を受けてもしょうがない書き方になっていると思います。

 ・・・えーと、まだ最初の3ページにしか言及していませんが、長くなったのでここまでにしておきます。
 もしかしたら続きを書くかも。

<注釈>
※1
 本の内容の解釈としてでも、このようなコトを文章にするのはとても辛く感じましたし、当エントリをお読みになったかたにも大変ご不快な思いをさせたのではないかと思います。申し訳ありません。

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コメント

もう少し先の8ページにこんな記述があります。
> だからといって、この事件に関し、助産師にまったく責任がないとは考えてはおりません。
> ビタミンK2をとらないのは、本人の希望であるというサインをもらっておくべきであった
> でしょうし、母親のためとはいえ、母子手帳に「ビタミンK2投与」と書くべきではなかっ
> たと考えます。

裏返せば、母子手帳に虚偽記載をせず、本人のサインがあれば、適法だったかのように述べているわけです。
これを書きたくて、内容を秘匿した和解に持ち込んだようですね。
民事は、不法行為に基づく損害賠償ですから、判決が下れば、どこに「不法行為」があったのか、理由が明示されます。
私の乏しい法律知識では、「業務上過失致死傷」に該当しますので、前述のような書類の不備なんて、どうでもいいのです。
そこをさも、手続き上の不備のように矮小化している所が気に入りません。
本当に手続き不備だけが問題でしたら、堂々と判決に持ち込み、わずかな金額を支払って終わることですのに、しかるべき金額の和解が成立したということは、(絶対に)^3そんな些細なことではありません。

由井氏の狡猾さがよくわかります。

投稿: mimon | 2011年8月27日 (土) 22時39分

mimonさん、こんにちは。

 著者はおそらく

(1)インフォームド・コンセントさえキチンとしていればいい。
(2)患者にはどのような治療を受けるか、自分で選択する権利がある

辺りのことからこういった記述をしているんだろうと思うんですが、インフォームド・コンセントを十全に成立させるにも、必要な要件があるわけですよね。
 「ハンコさえ押させれば契約は成立」みたいな考え方は、世間ではあまり良い目で見られないだろうと思います。

 mimonさんがご紹介くださった部分もぜひエントリで取り上げたいんですが、なかなかそこまで辿りつけません(^-^;

投稿: ハブハン | 2011年8月28日 (日) 17時40分

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