読書感想_毒と私(4)
前回の続きです。
<過去のエントリ>
<K2シロップの効果>
ビタミンK不投与事件では、朝日新聞を中心に、様々な報道がされました。著者はそれに対し、
(p.2より引用)
マスコミの報道には、私たちの把握している事実と異なる点がいくつかありますが、(以下略)
としており、さらに本書の6ページから、その「異なる点」について説明しています。
どんなことが「事実と異なる」と言っているのか、見ていってみましょう。
では、私たちの知る事実と一連の報道がどのような内容だったのか、簡単に見てみます。
<報道内容>
・乳児の死亡原因となった急性硬膜下血腫を引き起こしたのは、ビタミンK2シロップの不投与によるビタミンK欠乏性出血症である。<私たちが知る事実>
乳児の死亡原因となった急性硬膜下血腫を引き起こしたのが、ビタミンK2シロップの不投与による「ビタミンK欠乏性出血症」であったかどうかは、証明されていません。乳児の検死は行われず、訴状にも医師による診断書が添付されていませんでした。
ビタミンK2の不投与について非難があるとき、それは二つの事実を基に行われています。
(1)ビタミンK2不投与の事実があったこと
(2)ビタミンK2不投与により、出血による乳児死亡率が上昇することが認められていること
コレは、飲酒運転に置き換えると分かりやすいと思います。
(1)運転前の飲酒の事実があったこと
(2)飲酒により、交通死亡事故をひき起こす確率が上昇することが認められていること
事故を起こしたヒトが飲酒していたら「飲酒により死亡事故を起こした」と言われるわけです。
そもそもビタミンKを投与していても出血を起こす事例は、いくつも報告されています。
もちろん、飲酒していなくても死亡事故を起こす事例は、いくつも報告されています。んで、以下が「ビタミンKを投与していても出血を起こす事例」として紹介されている内容なんですが、
昭和63年度厚生省心身障害研究の「第3回乳児ビタミンK欠乏性出血症全国調査成績」によると、昭和60年7月〜63年6月までの3年間に、突発性ビタミンK欠乏出血症は126例あり、そのうち16例ではビタミンKが投与されていました。
日本産婦人科医会の資料、「正期産新生児に対するビタミンK2投与のあり方について(PDF)」のスライド18枚目(PDF9ページ目)に、投与割合についての記述がありました。施設を対象にした調査のようで、全体の割合と完全に合致するかどうかはわかりませんが、投与率は以下のようになっています。
第1生日 92.4〜95.4%
退院時(4-7生日) 92.4〜96.9%
生後1ヶ月検診時 88.8〜93.7%
全新生児・乳児のうちざっくり90%が投与を受けているとして、もしK2シロップになんの効果もなければ、ビタミンK欠乏性出血症を発症した乳児のうち、9割が投与を受けているコトになるはずです。つまり、126例のうち、113例程度。
それが実際には16例、ということで、効果は劇的ですね。
逆にいえば、もしK2シロップに効果がなければ、発症は1100例にのぼっていたと考えられます。
更にいえば、もし全員が投与を受けていたなら、症例は30例そこそこになっていたでしょう。
「突発性ビタミンK欠乏出血症は126例あり、そのうち16例ではビタミンKが投与されていました。」というのは、そういう意味ですね。
(以上の計算はざっくりとしたもので、実際の数字とは乖離があります。その場でパパパっとある程度は計算できますよ、みたいな意味で載せてみました。正確なところは「新生児・乳児ビタミンK欠乏性出血症に対するビタミンK製剤投与の改訂ガイドライン (修正版)」の13ページに情報が載っています)
もしK2シロップにそこまでの必要性があるのならば、国は投与を義務化すべきと考えます。
投与にかかるコストの事を考えれば、新生児のうち1000人余りをビタミンK欠乏性出血症から救うために、100万人の新生児全員へのシロップ投与を行うべきかどうか、という観点はありかもしれません(※1)。
でも親御さんにとっては、ほとんど迷うことのない選択だろうと思います。
私は独身ですが、もし結婚して子供ができたら、やっぱり迷うことはないでしょう。
わざわざ義務化なんかしなくても、みんなが自分の赤ちゃんのことを第一に考えるのが、当たり前の世の中であってほしいですね。
義務でない現状では、人工物を摂取しない自由は、自己責任の範囲で、誰にでも認められているはずです。
新生児、乳児は自分で選択できません。
だから自己責任とはちょっと違いますね。保護者の責任の範囲、でしょう。
んで、今回の件で、誰も親御さんを責めていませんね。責めているのは、助産師がビタミンK2を与えなかったこと、その行為を、主治医が認知している範囲外で行ったこと、母子手帳に虚偽の記載をしたこと、などなど、です(※2)。
もしホメオパシーがこの助産師の判断になんら影響を与えていなかったとすると、つまり、その行為がもたらすリスクをキチンと認識していたとすると、この助産師の行為は、未必の故意による殺人行為と判断されかねないものであると思います。
<注釈>
※1
費用対効果を考えれば、実際にはほとんど議論にはならないでしょう。まして自分の子供に対してだったら、ねえ。
※2
お母さんが知らないトコロでこのような行為をしたこと、などももちろん含まれますが、この本の中ではそれを否定しているようですので、一応表記からは除外しておきました。
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