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活性酸素は本当に老化の原因なのか

(2013/05/09 文意が正確に伝わるよう、細部を修正しました)
 
 私がときどき購入している日経サイエンスに載ってた記事ですが、すでにいくつかのブログで取り上げられたりしているみたいです。
 
 
(p.60より)
老化は活性酸素によって引き起こされビタミンでそれを防げば若さを保てるのではないかー
ここ数十年信じられてきたそんな見方は間違っていたのかもしれない
 
(リンク先の説明文より)
 「活性酸素は老化の原因」「抗酸化サプリでアンチエイジング」──こんなうたい文句を聞いたことのある人は多いだろう。フリーラジカルなどの活性酸素によって細胞が傷害を受け,その蓄積のために老化するという説は,1950年代に登場し,老化メカニズムの“定説”になった。だが最近の研究によると,それほど単純な話ではないようだ。マウスに抗酸化物質を食べさせると寿命が延びるとした初期の実験は再現できず,遺伝子操作でフリーラジカルを多く作らせた線虫はむしろ長生きした。抗酸化剤を飲んでいる人が長生きするとの証拠も見つかっていない。どうやらフリーラジカルは単なる「悪玉」ではなく,細胞修復を促す役目もあるようだ。
 

(p.62より)

 生物学者ジェムズ(David Gems) の研究者人生は,2006年を境にひっくり返った。死ぬはずの線虫が生き続 けていたからだ。
 そのとき彼は、老化の主因は酸化による細胞傷害の蓄積だとする説を検証していた。
 
(中略)
 
実験で作成した線虫はこれらの特定の 抗酸化物質を体内で作れず,予想通り フリーラジカルが蓄積し,酸化によるひどい損傷を受けた。にもかかわらず, 早期に死ぬわけではなかったのだ。
 
(中略)
 長年続いてきた酸化的損傷による老化説を支持する人々にとって,これらの結果は異端でしかない。しかしそれは次第に例外というより標準になりつつある。ここ10年間にフリーラジカルなどの反応性分子が老化を促進するという説を裏付けるために計画された実験の多くは,むしろその説への反証になってきた。さらにそうした高エネルギーの分子は,特定の量と状況においては健康に役立ち,生来体に備わっている防衛機構を刺激して体を良好な状態に保っているように見える。
こうした考え方は今後の老化防止の 対策に重大な意味をもつだけでなく, 大量の抗酸化ビタミンを飲むという広く行われている健康法にも疑問を投げかける。
 
(p.66より)
2007年,Journal of American Medical Association誌は68の臨床試験を「システマティック・レビュー」と呼ばれる統計的な手法で解析した論文を掲載し,抗酸化物質サプリメントが死亡のリスクを低下させることはないと結論づけた。分析対象を最大限バイアスを排除したもの(摂取群と非摂取群への振り分けがランダムで,研究者も被験者も何を服用しているかがわからない二重盲検)に限定すると,ある極の抗酸化物質は死亡リスク増大と相関しており,リスクが最大16%増大する例もあった。
米国心臓病協会,米国糖尿病学会など米国の関連機関は現在,ビタミン欠乏症と診断されて治療のために服用する場合を除いて,抗酸化物質のサプリメントを飲むべきでないと勧告している。「これらのサプリメントは,とくに高用量の場合,必ずしも以前考えられていたような有益な効果は得られないとする科学的証拠が積み上がってきている」と米国立がん研究所栄養疫学部門の上席研究者アルバネス (Demetrius Albanes)は言う。むしろ「私たちは実際には有害である可能性を強く意識するようになっている」。
 とはいえ抗酸化物質の人気が完全に消えるとは想像しにくいし,老化研究者の多くがフリーラジカルは有益だとの見方に納得するには,もっと多くの証拠が必要だろう。だが老化は60年 前にハーマンが想像したよりもはるかに込み入った複雑な過程であることが 徐々にではあるが示されつつある。
 
 ということで、従来考えていたよりも(あるいは従来考えられていた通り?)老化という現象は複雑で、活性酸素が多いから老化が早いと言える訳ではなさそうだ、というコトを示す事例がいくつか見つかってきているという記事でした。
 もちろん、活性酸素が無関係だとわかった、ってわけでもなくって、発見されていない他の要因との交互作用があって、老化の原因になる場合とそうでない場合とがある、なんてことも考えられます。
 そこは今後確かめられていくんでしょうけれど、その中で老化防止に結びつく新たな発見があると良いですね(やっぱり元気に長生きしたいので)。
 
 たとえ活性酸素と老化に明確で単純な関係があったとしても、サプリメントに効果があるかどうかは疑問の残るところですが(^-^; 記事中にあったように死亡リスクを増大させるとなると、長生きするつもりでやっていた行為が逆効果だった、なんてことになるのかな。それもまあ、この記事だけからはなんとも言えません。
 もし今後、活性酸素と老化の関係が科学的に否定されることになったとしても、抗酸化作用を謳った様々な商品の売り込みは続くでしょうし、そこでは「活性酸素は老化の原因」という説明は、継続して利用されていくことでしょう。そうなればもう、立派なニセ科学ですが。
 抗酸化剤に限らず、様々な健康食品、様々な民間療法によって、自分の寿命が何年のびたのか、あるいは何年縮んだのかなんてコトは本人には分からないわけで、知らないままでいられたら、それはそれで幸せなのかも知れません。
 ・・・などと悟れるなら、そもそもサプリメントなどなしで幸せな生活を送れそうな気もしますけど(^-^;
 
 ちょっと脱線。
 技術にしろ、知識にしろ、進歩の影には必ず割をくうヒト(不適切なものを、気づかず利用して不利益をこうむった人、利益を享受できなかった人)が発生します。
 
「みんな今までこれが正しいっつってたじゃん! なんで今更『間違ってました』なんて言うのよ!」とか、
「突然有害だなんて、いままで平気で使ってたのに!」
「あと5年、あと5年早く分かってればあの人も助かったのに!」とか。
 
 科学が進歩しないものなら、害をこうむっていたとしてもそれに気づかず一生を終える場合がほとんどでしょう。でも科学の場合は、新しいことが分かる、または過去の知見が修正されるために、それまでの知見や行動が不適切、または十分でないことに気づいてしまうわけです。そしていま妥当とされているものについても、将来見直される、少なくともより良いものに置き換えられていくのだろうという思いを抱かせます。
 それが重大な問題であればあるほど、進歩が画期的であればあるほど、残念に思う気持ち、悔しい気持ちは大きいでしょう。
 
 「科学は間違うが、ニセ科学は間違わない」って言ったのはkikulogの菊池さんでしたが、これは要するに過去の知見が、進歩によって修正されるか、修正されないかの違いです。
 ニセ科学に人が惹きつけられるとき、それが(変化はすれど)進歩しないものだからこそ、「割をくわずにすむ(割をくったと気づかずにすむ)」っていうのは、やっぱ大きな要素ですよね。ホントに気づかず最期までいければ、ですけど。
 逆に言えば、ニセ科学の蔓延に対応しようとしたとき、直接的な批判とは別に、一般の人が科学(の進歩)に対してもつ「割をくった」感をどうケアするか、という部分がとても大切なのだろうと思います。

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